気候の変化に反応して、様々な表情を見せる結晶たち。「Tempo Drop」は、天候・温度などに反応してガラス管の中の結晶が姿を変えるオブジェです。「Tempo Drop」をはじめとした、デザイン性に優れたユニークな商品を次々と生み出している、株式会社100%(ヒャクパーセント)の代表取締役、坪井信邦さんにお話を伺いました。
仏教の教えを、モノづくりに生かす
——ご兄弟で起業されたと伺っています。
弟が多摩美術大学でデザインを専攻していて、彼がデザインした商品を作り始めたのがスタートです。最初は、彼が会社を作っているところ、僕が相談にのっていた感じでした。僕は当時アメリカのサンフランシスコで働いていたんですが、会社を辞めて日本に帰ってきて、合流しました。もう11年も前の話で、弟はその後デザイン事務所を立ち上げ、独立しました。
——現在、企画・デザイン・物作り・営業まで自社で行っているそうですね。
はい。ほとんどのことは自社で行っています。ただ、工場は持っていないので、ファブレスとしていろんな工場を探して作っていただいています。なので、製造については生産管理のみを行っています。
——TEMPO DROPは、昔の航海で使っていた予測器が原型となっていると伺っています。商品化しようとしたきっかけは何ですか?
この商品に関して言えば「ストームグラスっていうものがあるんだけど」っていうことを知人から聞いて「面白いかも」って思い、こういう水の滴の形にしていこうって決めていきました。
——直感で思いついたのがすごいですよね。
僕は他の仕事をしながらでも、ずっとアンテナを立てて、何か面白いものないかなって、考えているんですよね。だからちょっとしたことに「あれ?」って思ったら、できるだけ立ち止まろうと思っています。
——常に意識されてるんですね。それはこの会社を立ち上げる前からですか?
そうじゃないですね。28歳で起業しましたけど、すぐに上手く経営できるはずもなくて。その時に、なりふり構ってはいられなくなって、考えるようになりましたね。だから、生きるためです。
——ご実家はお寺と伺っています。その環境と発想が豊かなことは何か関係しているんでしょうか?
僕は大いにあるなと思っています。長男なのでお坊さんもやっているんですけど。170軒くらいの檀家さんがいて、葬儀にも行きますし、供養とかにも回ります。面白いのが曹洞宗800年ですよね。「的々相承」といって、受け継いだものを次代に引き継ぐ、橋渡し役なんですよね。お経を一言一句正しく伝えるとか、いろいろルールがあるんですけど、それを全部口で伝えていくことを、この宗門はやっているんです。ここでは僕はクリエイティビティは何も求められてなくて、ほんとに取るに足らない一僧侶でしかないんです。
——会社の代表をされながらお坊さんもされているなんて、すごいですね。その経験と発想が豊かなことには関係があるのでしょうか?
はい。僧侶がすることというのは、800年という歴史の中で、必要なことだけが残っていくようになってるんです。合理的というか、正しく形を変えてきて今がある。だから僕は、引くことをこの宗門でやってるわけですよね。何かを加えるというより、これ変えるとか、これ止めるとか。
——なるほど。お坊さんとしてのお仕事には引き算で必要なものを研ぎ澄ませていく、と言った部分があるんですね。
でも、こちらの会社では、ないものを見いだすのが仕事なんですよね。でも元々、必要最低限しかなくていいと思っている曹洞宗にいるので、本当に必要なものだけを考えるときに、強くしっかりとそのことを言えないと、埋もれちゃうし淘汰されちゃうんです。だいたいのものが、仮に必要ないものだとしたら、僕が作るものもその可能性があるんじゃないか?っていうことを反芻するようにしているんですよ。
——そのことが、御社がつくる商品の差別化につながっているんですかね?
それもあると思います。TEMPO DROPでいうと、滴の形であったことが、よかったんだと思うんです。これは自然の変化を捉えている商品で、形を自然にあるものにしただけなんですよね。そもそも300年前からある原始的なものだから、人の琴線に触れるようなもの・形でなくてはいけない、それなら自然から踏襲すべきだろうっていうのが、僕の考えです。
——いろんな面で、お寺に生まれたことが、お仕事に繋がってそうですね。そぎ落とすところもそうですし、その中で残さなくてはいけないものの価値を伝えるとか。仏教は型をしっかり守ったりするところもありますよね。そこを身に付けているからこそ、新しい発想が出てくるところもあるんだと思います。
そうですね。僕はまず捨てることが基本なんです。会社に来てまずやることは、郵便を捨てること。持ち物もそうなんですけど、買うんだったら捨てるんです。一週間が7日であることは変わらない、だから服が欲しくても、どうせ着れないと思って買わない。スペースも限られているんで。それよりも引き出しが気持ちよく開く方が、ストレスがなくていいなって思うんですよね。
——きちんと捨てるべきものは捨て、価値がある部分を残す。そういう感覚が身に付いているんですね。
修行で使う袈裟行李っていう籠には全部の身支度が入るんですよ。これは座禅堂の一人に与えられたスペースが一畳なんですが、畳一畳とその下に引き出しがあって、そこに全てのものを入れないといけないんです。でもそれで十分生活できる。修行僧は、雲水って言うんですけど、雲のようにたゆたって、水が流れるようにたゆって。そこから言うと、食器棚があったり洋服ダンスがあったりっていうのは、持ちすぎてるとも言えるんです。
——その考え方は、昔から受け継がれていると思うんですが、今の感覚に合いますよね。
そうですね。だから「これは作るべきなのか」とか「これほんとにいるのか」ということは、他のメーカーよりも時間をかけていると思います。
いつもの毎日が、違った毎日であることに気づく
——物をできるだけ持ちたくない、価値がある物を持ちたいっていう考え方は、買う方に対しても同じような考え方を持っているかもしれない、ということを想像して提供するんでしょうか?
そうかもしれないです。ワインオープナーはワインを飲む時にだけ使います、でも下駄箱は毎日使いますよね。どっちが人生において力を入れた方がいいかなって考えたら、毎日使う物だと思うんです。それで日常に溶け込むようなもの。毎日そこにあって、見て気持ちいいものがあったらいいな、と思いました。だからTEMPO DROPに関して言うと、天気の話もありますが、毎日違う『毎日』を生きているっていうことを、感じてもらえるものをと思っています。日々をルーティンで生きている人に対して「なんか今日TEMPO DROPが違う」とか、気づきを与えてあげられると、暮らしへの意識が変わってくると思うんです。
——そこがフェーズフリーにつながりますよね。普段の変化を楽しむことによって災害時に使えるっていうことになる。
TEMPO DROPは、いわばオブジェですが、変化のないオブジェは、そのうち見飽きるわけですよ。でもこれは変化が起こって、オブジェとしても楽しみがある。そこに、ついでに気象情報も分かるぐらいのイメージで作っているんです。
——TEMPO DROPで、生活がどのように変わると思いますか?
毎日が違う日だっていうことを、分かりやすく変化として見せたい。同じような日なんだけど、実は違っているということを。
——今日一度しかないこの日を実感する、ということですね。
見た目以上の、危険が伴う制作現場
——TEMPO DROPの開発をする中で大変だったところは、具体的にどのあたりでしょうか?
この商品は、珍しく中国製なんです。昔は、日本でも作ってたけど、作れなくなったんだと思います。すごく原始的な造りなので。だから、工場を探すのが難しかったです。
——この形ってどうやって作ってるんですか?
簡単に言うと管状のガラスがありまして、回転させながら熱を入れて形を変えていきます。管なんで片方を切ったら底になります。それで、もう一方のまだ開いてる状態のところから液体を入れて、最後にこの突起部分をガスバーナーで炙って閉じるんです。だから一個一個ここの形が違うんですよ。水位も違うのは、中にエタノールと樟脳と水が入ってるんですけど、エタノールを入れながらガスバーナーで炙るので、引火の危険があるわけです。だから日本ではなかなか難しい。
——そうなんですね。この形状を作って液体を中に入れて、その後落ち着いてから閉じるんだと思ってたんですけど、同時進行なんですね。中国の製造工場ってどうやって見つけたんですか?
ストームグラスって元々世の中にあるものなんですよね。日本にも輸入しているメーカーがあって、そこから辿っていきました。
——通常のストームグラスは、円柱状というかドーム状が多いですが、TEMPO DROPが滴型になっているのはなぜですか?
水の滴の形を持ってきたかったってことと、現象が大きく出るんですよ、レンズ効果で。あと、この形状のストームグラスって他にはなかったので。
——TEMPO DROPはどういう方にお使いいただいていることが多いですか?
老若男女いますが、ギフトとして用いられることが多いですね。パッケージも贈り物として向いていますし、存在感もありますから。やっぱり贈り物って、贈る側の自己満足も大きいじゃないですか。「こんなもの見つけたんだよ、俺は」っていうところをくすぐられてるんじゃないかなと思っています。
——そうですね。入院されている方に贈るのもいいかもしれませんね。外が見えないとか、外に行けないっていうときに贈られると、外と繋がってる気持ちになれると思います。
普段の暮らしで使えるものが、いざという時の明かりになる
——こちらの商品も素敵ですね。
CANDRAですね。
——キャンドルって私たちの日常生活に豊かさをもたらすものだと思うんです。それに加え、災害時でも明かりとしてとても助かるものですよね。しかも防虫のタイプもあるということで…。災害時ってすごく虫が発生するので、その解決にもなりますよね。…とかなんとか言ってしまうのですが、単純にデザインが好きなんです。
結構うんちくもしっかりあって。まず燃焼効率がすごいいいんです。これはオイルランプなのですが、キャンドルより燃焼効率がすごくいいんです。だから、明かりが長く持続できるんですね。しかも、引火性がないんですよ、このオイル。だから安全なんですよ。オイルがこぼれて火を付けてもボッと燃えたりはしないんです。
——エタノールランプと一緒で、芯がないと火がつかないということですね。
中に入っているのはパラフィンオイルというのですが、引火性がほとんどないんです。煤も出ないんですよ。で、おっしゃるように虫よけのタイプのオイルもあるので、虫を寄ってこなくすることもできて。だからいろんな意味で理にかなっている。
——懐中電灯も便利ですけど、非常時に懐中電灯でご飯を食べるのもちょっと辛い。でも、このような素敵な明かりだったら、これを囲んで家族でご飯を食べたいなと思うし、少し贅沢な気持ちにもなれると思います。
火は自然の産物ですからね。懐中電灯は人工的に作った明かりでしかないですけど、これはやっぱり熱を持ってますし。温もりがあるので、それを囲みたいという気持ちになれますよね。それって温もりっていうか、あと、意外と夜だけじゃなく昼もいいんですよ。明るい時間でも、ろうそくの火って和ませる効果があるようで。そういった意味で、お昼にも使っていただきたいですね。
キャンドルらしいフォルムにするために、開発に時間をかけた
——普段みんなで食事を食べるときに真ん中にあったらすごくいいですし。普段の食事のときに使うものが、いざというときに別に押し入れから取り出さなくても、そのまま役に立つっていうのはすごくいいですよね。ところで、こちらは磁器で出来ていますが、何焼なんですか。
愛知県の常滑焼です。半磁器というんですが、半磁器のいいところは熱くならないところにあるんです。熱を持ちますけど、触ってもほんのり温かいぐらいで。
——それも重要ですよね、火傷しないというか。
開発にも2年3年はかけてます。CANDRAは外側が上から下まですべてつながっていて、一体型になっていて、上に穴が空いている構造になっています。穴の部分は、この穴の部分に芯がちょうどパカッとはまらなくてはいけないので、穴が大きくても小さくてもいけないんです。でも、焼き物って収縮するんですよね。穴の大きさが狙っても狙い通りにいかなかったりしていました。あと、穴が小さいので穴を開けるために詰めていた泥がなかなか落とせなかったり…いろいろと工場泣かせで、試作から快く引き受けてくれる工場を探すのにも時間がかかりました。
——一体型にしないといけなかった理由ってなんですか。
二つのものを繋げると線ができて、後からつなげた感じになります。でも、CANDLAってキャンドルからきてるんですよね。キャンドルは、上と下につなぎ目は無いですよね。やっぱりキャンドルらしさは大事にしたいと思ったんです。キャンドルっぽく、でもオイルランプっていうのが良いと思ったんです。。
——確かにつなぎ目があると、キャンドルっぽくはなくなりますね。そこまで考えていた、ということなんですね。
焼き物のオイルランプって他に知らないんですけど、初め全然売れなかったんです。オイルランプってヨーロッパでは元々あるんですけど、日本では知られていなかったんです。最初にいきなりこれがあっても、わからないですよね。でも、日本でも震災以降少しずつオイルランプの認知が深まっていきました。世の中が変わっていくのに応じてみんな知っていくということですね。震災以降、興味を持ってくださるお客様が増えました。
現地の生活にあわせた海外戦略
——海外展開について伺います。国としてはどこに一番力を入れていますか?
ドイツと台湾には100%の関連会社を現地に作っています。誰かに任せると上手くいかない経験をしたことがあったので。市場には、自分たちで倉庫や在庫を持って流通させた方が、お客さんに近い。そのぐらい気合を入れようと思っているんです。他にも、その国の生活を経験することによって、別のエッセンスを取り入れられるっていうのもあります。住んだら「いる、いらない」とか「もっとこうすればいい」とかが出てくると思うんです。
——現地法人を作るって、他の会社ではなかなか決断できないと思うんですが、メリットは多いですよね。特に海外展開で人任せにしてしまうと、ディストリビューターとの伝言ゲームになってしまう。現地法人を作ることは、コンセプトを伝えるって意味でもすごくいい方法ですよね。
そうですね。「ドイツに会社を作るなんて珍しい」と言われるんですけど、逆に僕は現地法人を作らずにどうやって成功するんだろうって思っているんですよね。会社を作ることって大ごとではありますが、上手くいかなかったらやめればいいんです。上手くいくように形を変えてもいいと思いますし。モノづくりはトライ・アンド・エラーの繰り返しなんですが、会社も同じです。しんどい思いをしてつくったものは、できる限り廃番にしない主義なんですが、改善はします。それだけ1個の物を生み出す時には責任を感じて作るんで、世界的に売っていきたいっていうのは自然な流れですよね。
——現地の生活習慣とかを知ることで、新しい提案が生まれたりすることはありますよね。
あんまり深くは考えてないですけどね。ただ素敵だから住みたいだけなんで。日本にいるとよく思うんですけど、そこら中が広告や標識じゃないですか。でも、ドイツはそうじゃない。自分で考えろ、選択しろっていうスタンス。日本はどんどん便利になって、駅の中にまでコンビニ作っちゃったりしますけど。ドイツは人間らしく生きられるなって、行く度に思いますね。
——確かに便利という環境のなかでは、情報の受け方とか判断の仕方とかも国によって変わってきます。そうすると、日本ではこういう使われ方をしているけど、海外ではまた違う使われ方をしている、とかもありそうですよね。これからの展開も楽しみですね。ありがとうございました。
HACOBUNEスタッフのポイント
Tempo Dropってこんなにフェーズフリー!
■日常
普段はインテリアとして、空間のアクセントに最適です。さらに、ガラスの中の動きを見ながら天気を意識することで、洗濯物が外に干せる、傘を持って行った方がいいなど、判断材料のひとつになってくれます。自然の変化にあわせて、毎日表情が変わるので、玄関先やリビングなど、目に入りやすいところに置いておきましょう。
■災害時
TEMPO DROPの動きを毎日目にすることで、雨が降るかも、何かが起こるかもと、自然に意識が向き防災への意識が高まります。また、実際に災害に遭ってしまったあとは、テレビやラジオなどでいつも情報収集ができるとは限りません。天気は人が生活していくうえで大切な情報です。それを電気を使わずに知らせてくれるので、まさかの時でも頼れます。
Tempo Drop
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商品名 テンポドロップ
商品サイズ 幅115mm×奥行115mm×高さ205mm ※木座込み
素材 硼珪酸ガラス 混合液:水/エタノール/天然樟脳/塩化アンモニウム/硝酸カリウム
Tempo Drop mini
商品名 テンポドロップ ミニ
商品サイズ φ80mm×110mm
素材 硼珪酸ガラス 混合液:水/エタノール/天然樟脳/塩化アンモニウム/硝酸カリウム
CANDLA Shiro
画像:hacobune
商品名 CANDLA RAINBOW OIL SET (防虫ハーブオイルセット)Shiro
サイズ 直径6cm x 高さ7.2cm
素材 半磁器