風祭千春さん – 自然の変化、家族の成長に 寄り添う家を作る

フェーズフリー建築協会理事長・一級建築士 風祭千春(かざまつりちはる)さんインタビュー (2018.10.12作成)2018.10.12作成

写真:イツモノ編集部  文:イツモノ編集部

日常と災害時に違ったパフォ—マンスを発揮するフェ—ズフリ—・アイテム。その考え方は建築の世界でも研究されています。「地震に強い家」であることはもちろん、自然と一体になれたり、地域の避難スペ—スになったり、取り入れ方はさまざま。「バリアフリ—と同じように、フェ—ズフリ—も根付いてほしい」と語る、特定非営利活動法人フェーズフリー建築協会理事長で一級建築士の風祭千春さんにインタビュ—を行いました。

フェーズフリー建築協会理事長で一級建築士の風祭千春さん

 

100年住みたくなる家づくり

※茨城県指定文化財の穂積家住宅

 

——建築家になった理由、特に木造を選んだ理由は何でしょうか?

もともと絵を描くのが好きでした。高校は理系で、女子校だったので看護科に進む人が多かったのですが、自分には建築の方が向いているんではないかと思いました。木造については、、地元が茨城県高萩市というところなんですが、近所に「穂積家」っていう、築200年ぐらいの古民家があって、そこが子どもの頃の遊び場でした。もしかしたら、そこでの経験が影響しているかも知れませんね。

※風祭さんが設計した、羽村市の日野邸。使う人の顔が見える建築を重視している。

 

——建築の中でも、公共施設や商業施設など、いろいろありますよね。その中で、住宅に興味が湧いたのは何かきっかけがあったんですか?

住宅が、最終的に使う人の顔が一番見えるからです。自分が分かる範囲で仕事がしたいという思いが強くありまして。公共施設や商業施設もいいのですが、依頼をする人も使う人も、多数になってしまいますよね。そうなると、自分がわからない世界になってしまいそうで、私にとっては住宅の方が魅力的だったんです。

※家を使う人とのコミュニケーションを大切にする。

 

——建設家として、どのような仕事をしていきたいと考えておられますか?

建築の仕事は、自分一人で完結するものではありません。施工会社さんや資材屋さん、様々な人が関わりあって成り立つものです。だから、人と人を繋ぐ架け橋のような役割を担える建築家でありたいと思っています。お客様、現場の方を含めみんなが「この家を作ってよかったね」って言いあえるような仕事をしていきたいですね。

※自然光を取り入れる工夫がいたるところに凝らされている。

 

——具体的には、どのような工夫をされているのでしょうか?

例えば、寒い日とか暑い日以外は窓を開けて生活できるようにしたり、日々の生活の中で季節を感じられるようにするような工夫をしています。また、今住んでいる家で感じている不満があれば、それを解消できるように心がけています。あとは、長く住めるようにすること。一般的な木造住宅の寿命って30年ぐらいって言われているんですけど、あまりにも短すぎるようにも感じます。もっと長く住める家にしたいですね。

※家には家族の成長の歴史が刻まれる。

 

——国の政策としても100年住宅っていうキ—ワ—ドもでていますよね。

そうですね。でも、建物が100年もてばいいというわけではなく、100年住みたいと思ってもらえないと意味がありません。お孫さんの代になった時に「おじいちゃん、おばあちゃんの家っていいね」って言ってもらえるような家を作りたいと思っています。今、次の世代、その次の世代にも「いいね」って言ってもらえる家って、そう簡単には壊されないと思うんです。そういう風に、住みたいと思ってもらえる家と、家族の変化にも対応して住み続けられるような家の作り方をしたいと思いますね。

※お子様が小さい時はリビングの横で勉強できるように、成長したら部屋を二つに分けられるようになど、家族の歴史に合わせて部屋の使い方を変えられるようにしている。

 

——100年住み続けられる、というのは、経年変化も楽しむということですか?

なるべく自然素材を使うようにしているんですが、汚れたとしてもそれが経年変化して、古民家のように、味わいが出てくるような素材を使いたいと思っています。建材の分野では、今の新商品がカタログにずらっと並びます。でも、それをすぐに使うのではなく、「この建材は100年後も手に入るのか」と、一度立ち止まって選ぶようにしています。

 

——未来も、同じ素材があるとは限りませんよね。

フェ—ズフリ—の考え方は、ずっと繰り返される震災などに対して、長い時間を見据えて考えていくという概念です。それって、建築の人たちは、すでにやっているなと思ったんです。今がピ—クではなくて「今の良さ」が下がらない、もっと言えば上がっていくように作りたいっていう思いがあるんです。日々の生活のしやすさも考えるし、今赤ちゃんだった子が育った時、また夫婦だけになった時、子どもたちが孫を連れて帰ってきた時など、長い時間を考えなきゃいけないと思いながら設計をしているところがあるんです。だから、フェ—ズフリ—の考え方をはじめて聞いた時、比較的すんなりと受け入れられました。

あらゆる場所に配置された窓から、季節の流れを感じられる。

 

自然に意識が向くことで生まれるフェ—ズフリ—

——「季節を感じられる」といったことがフェ——ズフリ——とリンクすることもあるのでしょうか。

そうですね。自然を感じられるっていうことは、台風が来そうだな、と雲の動きを見たりとかそういうことにつながるかなって。そんな風にもっと外に意識が向くような設計というか暮らしを提案できたらいいのかなって思っています。

——今年は葉っぱが落ちるのが早いぞとか、セミが鳴きやむのが早いぞみたいなことを感じられると、季節を感じる感覚が鍛えられていくかもしれませんね。

単純に雲の動きを見るだけでも違うと思うんです。昔の人って、山の方を見て明日は天気崩れるとかわかったそうなんですが、そんな風にまずは外に意識を向けることから始めてもいいのかなって思います。単純に、窓からの光で日が長くなった、短くなったとかだけでもいいと思います。そうすると普段の生活で、夕方5時でこんなに暗いんだったら子どもには、明るめの服を着させなきゃ、といった気付きみたいなものが得られるようなことができると思うんです。

——自然や環境を感じることが、危険を回避するための行動につながるかもしれませんね。

 

ライフスタイルにあわせて、家族と一緒に住まいをつくる

 

——建築家として、どんな時に嬉しい、と感じますか?

やっぱり、「ありがとう」の言葉をいただいた時ですね。家を建てる時って、たくさんの方とお会いして、何度も打ち合わせをするんですね。わたしの場合は、お客さまの家で打ち合わせさせていただくことも多くて、「将来は設計士になる!」って言ってくれる子もいます。そんな時は、とても嬉しいですね。また、家が完成した時には、「風祭さんと会えなくなるのが寂しい」と言っていただけることもあります。

※「楽しく暮らせること」をまず大切にしたい。

 

——提案する前にお客様のライフスタイルを見られるのはすごくいいですよね。フェ—ズフリ—についてはどうですか?

一般の方にとっては、地震が起きた時の安心安全はもう当たり前。これだけ地震大国で、たくさん記録的な大地震が起こっていますから。ですので「地震に強い家にしてください」の一言ですね。それよりも、その1回の地震を乗り越えるのはこっちで当然考えるから、他の何十年を楽しく暮らすにはどうしましょう、というのを一緒に考える方が家作りとして楽しいですよね。

 

——たしかに、楽しい家づくりを提案すべきかもしれません。

フェ—ズフリ—の商品開発の話をしていても、一般の人は災害時のことをなかなか想像できない。やっぱり提供する側が考えるべきなんです。それは建築であっても同じ。つい最近もお客さんと打ち合わせをしていて「備蓄品これぐらいの量が欲しいから、地下にこれぐらいの倉庫が欲しい」っていう話があったんですが「災害用の水を地下にしまって、それを定期的に点検するのって苦痛じゃないですか? だったら普段使う水の量をストックして、ちゃんと循環できるような間取りにしませんか?」っていう話をして、そしたらすごく納得してくれて。そんな風に、普段の暮らしに密着して災害のことを考えられるのがフェ—ズフリ—だと思います。

※風祭さんが理事長を務めるフェーズフリー建築協会のシンポジウムの様子。

 

——今フェ—ズフリ—建築協会はどんな活動をされているですか?

フェ—ズフリ—住宅コンペが主軸ですが、私たちが気付かなかったアイデアを住宅コンペで集めています。それと一緒にシンポジウムをやっていますね。

 

——私も住宅コンペの作品を拝見したんですが、すごく面白かったですね。ア—ト作品のような不思議なものもあったり。

上位の作品はすごく丁寧に考えてくれていましたね。今は住み方も多様化していて、核家族に加え、単身家族みたいな人たちも増えていったときにどうするか、みたいなものがありましたね。シェアハウスの提案もあったのですが、シェアという概念がフェ—ズフリ—で生かせることも出てくると思っています。

 

空間を「シェアする」という感覚

 

——シェアをフェ—ズフリ—に生かすとはどのようなことでしょうか?

「シェア」というのは、自分が管理しているものを、自分の決断で開放したりとか、一部を使わせることができる考え方。昔からある「共同」の考え方は、所有者のメンバ—が決定していて、そのメンバ—内で物事を決断していくからすごく難しい。みんなが使えそうで実はクロ—ズ。今回の住宅コンペでも「家を地域に開放します」のようなシェアの考え方がすごく多かった。「庭をオ—プンにします」とか。でも、実際に生活すると日々の生活の中で他人が庭に入ってくるって、現実的ではないんです。選んだ作品のように「いざとなったらここまでは開放できます」という、スペ—ス制限で提案をしているのはすごく面白いと思っています。

 

——普段は閉じているけど、いざというときに限定的にオ—プンにするということですよね。

そうですね。そういう考え方って、フェ—ズフリ—として面白いと思うんです。間取りさえ合致すれば、今の家を生かす提案もできると思いますしね。

※三井所清典賞を受賞した、前田直哉さん(名古屋市立大学)の「衣替えが見える住宅」。住民同士のプライベートが保たれることと、住民同士のコミュニケーションが取れることを、平常時・災害時の両面から考えている。

 

——シェアの考え方って、クロ—ズからオ—プンにしたときに「今オ—プンにしました」って何か告知する機能が必要な気がしますよね。

それはたぶん、立地条件とかそういったものによってやり方はいろいろあると思うんですけど。三井所先生が選んだ作品は、孤立した部屋の周りがオ—プンになっていて、オ—プンになる段階も分けられそうな感じでした。目で見て「今オ—プンだな」、「閉じているな」と分かりそうな作品だったんで。

 

——仕切りが外れたりするっていうことですかね。

部屋と部屋の間に建具があるので、外したり動かしたりとか、引き戸になっているんじゃないかとは思うんです。開放したりプライベ—トに使ったりっていうことができるんですね。

 

——襖を外すと宴会スペ—スになって、閉じると個人の部屋になる、みたいなのは昔からあったと思うんです。そういう意味では結構日本では昔からあった考え方ですね。だんだん減っていますが、それを見直すっていうのは面白いなって思います。

一人一部屋が当たり前になっていましたが。今は少し変わってきて、子ども部屋を区切らないって考え方もでてきています。

※フェーズフリー建築協会賞を受賞した、齊藤信正さん(travelbag)の「土間がつなぐ家」。災害時には、家の中の土間部分のみが地域の方々に開放される。

 

——なるほど、合わせ技っていうことですね。ちなみに協会賞はこれなんですよね。風祭さんたちが選んだもの。

これも1階部分にシェアの考え方が取り入れられていて、土間がド—ンとあって、そこで来客の人をもてなしたりする場所なんです。ここを災害の時に地域の人が集まる場所とか、貸し出せるスペ—スにしています。川が近いので、水害にも意識を置いているんですが、土間空間だと泥が入ると掃除が大変なんですけど、土間だったらそこさえ綺麗にすれば、家族と多少の地域の人ぐらいは受け入れられるスペ—スがある、という感じです。

 

——普段は家族が繋がれる場所として土間があって、災害が起きると、いろんな使い方ができますよっていう提案ですね。

 

フェ—ズフリ—の家づくりを当たり前の考え方に

 

——今後フェ—ズフリ—の考え方をどういう風に世の中の人に知っていただきたいと思っていますか?

「フェ—ズフリ—な造りにしましょう」そんな一言で片付くようにしたいです。少し前だとバリアフリ—がまさにそうだと思うんですけど。お客様の方から「バリアフリ——な段差のない家にしてほしい」と言われるように、「フェ—ズフリ—な家に住みたい」という思いを持ってくださればいいですね。

※日常の暮らしを豊かにして、災害時にも価値のある家を作りたい。

 

——フェ—ズフリ—な建築をするうえで、気を付けていることを教えていただけますか?

災害を意識し過ぎるために、防災住宅のようにしてしまうのは避けたいと考えています。日常の価値を下げてまで災害時だけに注目しているような家にはしないことですね。あくまで日常の暮らしを豊かにして、そのうえで災害時も価値がある家を提案するべきだな、とは思っています。

 

——そうですね。災害時に共有スペ—スができたりするのは大事です。でも、それが目的になるがゆえに普段のプライバシ—とか個人の生活が脅かされたら意味がないですよね。そのバランス感覚ってすごく重要だと思います。

設計をやっている者の方が、各地で震災、津波、火災などが起きた時の、住宅に関する情報収集はしています。そういったことをお客さまに発信し、具体的な提案をこっちからやっていかなければなりません。

※フェーズフリーの概念図。危機(Hazard)と社会の脆弱性(Vulnerability)が重なったところに、災害(Disaster)が起きる。

 

——フェ—ズフリ—というと、地震、火災、津波、台風とかそういった自然災害を思い浮かべるんですが、災害ってあくまでも危機と災害脆弱性が重なったところが災害なんですよね。

家を建てる時に聞くのが「花粉症で外に洗濯物を干せない」という声。これって災害だなと思うんです。それを、コ—トを掛ける場所を部屋の中に持ってこない、玄関先で埃を払って家の中までは持ち込まないようにしてあげる、といった工夫はできると思うんです。

 

——そういう努力をすることによって実は防げることもある。

花粉だけじゃなく「外に干せないから家の中に干せる場所を作りましょう」っていうのはすごくいいと思うんです。日常でも雨が続いたら洗濯物は外に干せないじゃないですか。そういうのも、家の設計の脆弱性と雨が重なっただけで、プチ災害が起こっているのかなって思うんです。でも、中にスペ—スがあれば、梅雨時期のストレスも減ります。

 

——災害という言葉は、意外と範囲が広かったりするのかなって思いますね。

災害じゃなくて違う言葉があるといいかもしれないですね。

※建築家としてもフェーズフリー建築協会理事長としても、今後もフェーズフリーの考えを広める活動をしていきたい。

 

——最後に、今後フェ—ズフリ—の活動をどう展開していく予定ですか?

まず3月11日~4月17日で住宅コンペをやります。阪神大震災があった1月17日にプレスリリ—スをだしたり、日程は全部災害の日に合わせるつもりです。災害の日に合わせることで風化させないっていうのが、フェ—ズフリ—活動のひとつだと思っています。そして住宅コンペも、前回は設計ができる人だけだったんですが、今度は一般の方に広げて募集しようと思っています。年齢制限もなくして、小学生のアイデアも見てみたいですね。

 

——今後の展開が楽しみですね。風祭さん、ありがとうございました。

フェーズフリー協会HP