青木俊介さん – 心の変化に寄り添い、 世の中をユカイにするロボットづくり

ユカイ工学株式会社代表 青木俊介(あおきしゅんすけ)さんインタビュー (2018.09.07作成)2018.09.07作成

写真:イツモノ編集部  文:イツモノ編集部

見守りロボット「BOCCO」を手がけたのは、ネットとリアルを繋ぐプロダクトを開発するユカイ工学株式会社。「ロボティクスで世の中をユカイにする」をテーマに、デザインやアプリの開発まですべて自社で行っています。代表の青木俊介(あおきしゅんすけ)さんは、東京大学在学中に猪子寿之さんたちとチームラボ株式会社を立ち上げた創設メンバー。ロボティクスとフェーズフリーについてお話を伺いました。

 

家にロボットが一台ずつある未来を目指して

——創業されてから10年になるそうですね。

登記をしたのは2007年。実際に独立したのは2011年です。元々は「チームラボ」っていうところにいました。「チームラボ」は東大時代の学生仲間で立ち上げた会社で、僕は2000年から7年くらい在籍していました。

——「チームラボ」は、猪子寿之さんが代表を務める、今をときめくデジタルコンテンツ制作会社ですよね。

大学のクラスメイトの彼と一緒に起業をしたんですが、僕はずっとロボットが作りたくて。気持ちを伝え、会社を辞めて2007年に登記をしたんですけど、起業準備も兼ねて友人の「ピクシブ株式会社」の手伝いをしていました。

——イラストレーターのためのSNSですよね。

「ピクシブ」に3年ほどいて、独立したのが2011年です。最初はほんとウィークエンドプロジェクトというか、学生と一緒にロボットを作ってるみたいな感じでしたね。サークル活動みたいな。

——猪子さんが辞めるのを許してくれたんですか?

いろいろすったもんだしてましたけど、仲良くやってますよ(笑)。チームラボは受託開発がメインで、クライアントが考えた価値をかわりに表現していくものが多かったんです。ロボットをはじめ、僕はもっと自由にモノづくりをしたかったんです。

※ユカイ工学として初めて手がけたロボット「カッパノイド」。

——ユカイ工学さんが初めて手掛けられたのは?

「カッパノイド」という、役に立たないロボットです(笑)。なでたり抱きしめたりすると反応して、イライラしているときは壁に投げても壊れない、人に緩やかに寄り添うコミュニケーションロボットです。ただ便利なものを作るのではなくて、社名の通り、ユカイなものを作ろうっていう縛りでやっています。

※家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO(ボッコ)」

——「BOCCO」は青木さんが生み出したものの中でもかなり機能が備わっているように思います。

元々「自分の子どもが鍵っ子になってしまう」っていう不安から来ているプロダクトなので、“ユカイの縛り”から一歩踏み込んでいます。

——心情的なものをすごく捉えているなと思っていて。例えば子どもが気を遣って「今お父さんにメールしちゃいけないかな」とか「電話しちゃいけないかな」っていうときに応えてくれるとか。あとは、監視カメラが付いてないのがすごいです。

親の立場からすると「何してるか見たい」っていうのはどうしてもあると思うんですけど、そもそもカメラでずっと見るのは大変ですし。カメラがあると構えてしまって、置いてもらえなくなるんじゃないかなっていう懸念もありました。東北弁で子供を意味する『ぼっこ』から名前をもらって、こけし人形みたいなイメージで作ってるので、なるべく機能を削ぎ落としてシンプルな構成にしました。

——さり気なさがいいですよね。忘れ去られてもいけないし、存在感がありすぎてもいけない。その微妙なところを突いてるなって思います。

しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」

——この「Qoobo」っていうしっぽとコミュニケーションが取れるクッションもすごく癒されますよね。

犬の散歩ができなくなって保健所に持ち込んだり、殺処分の飼い主って高齢者が多いそうです。悲しみに暮れる高齢者や、施設でペットが飼えない方の役に立ちたいという想いから「Qoobo」は生まれました。でも、販売してみたら意外と若い人たちも「かわいい」って盛り上がってくれて。寂しいのは高齢者だけじゃなくて、日常に潜むちょっとした孤独をみんな抱えているんだなっていうのがすごい分かりました。

——カメラがついていない「BOCCO」。顔もなにもなくて、クッションにしっぽが生えているだけの「Qoobo」。こういう繊細な感覚は青木さんが養ってきたものなんですか?

僕だけでなくてうちのデザイナーもすごく繊細ですし、社外のデザイナーの力も借りたりします。いろんな力を借りて、そういう人たちが集まる環境を作っていくことが、僕にできることなのかなと思います。

 

ロボティクスとベンチャーに憧れた学生時代

——ロボットへの興味のきっかけは何だったんですか?

中学生の時に「ターミネーター2」っていう映画にハマったんです。ターミネーター自体はもちろんなんですけど、そこに出てくるエンジニアがすごいかっこよくて。僕は、ロボットを作る側になろうって思ったんです。

——ロボットづくり。どこから準備するのでしょうか。

まずは、親を口説いてパソコンを買ってもらうところから始まりました。「これからはパソコンの時代が来るから」って、日経新聞とか見せてプレゼンして。半年以上掛かりましたよ。当時40万ぐらいするじゃないですか。家電の類で1番高くて、何に使えるのかよく分からない(笑)。

——1978年生まれですよね。最初のパソコンは何でしたか?

Windowsが生まれる前の、MS-DOSだったと思います。情報を入力するとちょっと動くじゃないですか。今はスマホとかがあるから画面の中のものを操作することは当たり前ですけど、僕が指令を出すと確実に何かが変わるっていうのはすごい快感でした。

——そこでオタクになって引きこもったりせず、ちゃんと受験勉強もしたっていうのがすごいですね。

当時はやっぱりパソコンっていうとオタクが触るものというイメージがありました。パソコン持ってるとそう思われかねないので、もう隠れキリシタンみたいな状態で(笑)。パソコンのことは友達には秘密で、図書館とかでこっそりパソコンの本を読むっていう毎日でした。

——高校時代はロボットを作ったりはしなかったんですか?

ロボットの“形”はつくってないんですけど、プログラミングとかは結構やってたかなと思いますね。ゲームとか、そんな大したものを作ったわけではないですけど、パソコンを使ってるのがひたすら楽しかったですね。一日中触ってても全く飽きないから、これをずっとやりたいなと思って。

——それで、大学に進まれてからはAIを専門にされたのでしょうか。

そうですね。僕が大学に入った1990年代後半って、インターネットの力で国境がなくなるとか、そういうことをものすごい言われていた時期で。世界が変わる熱狂感みたいなものをすごい感じていました。ホームページ制作会社も徐々に現れて、僕もそういう所でアルバイトを始めて。同じクラスの猪子君も「なんかインターネットやばい。なんかやらなきゃ」みたいな状態になってました。あと、NHKの「新・電子立国」っていう番組。

——ありました。NHKスペシャルの。マイクロソフトとか任天堂の開発秘話に迫るドキュメンタリー。

僕もちょくちょく観てたんですけど、猪子君がすごいハマってて。そこで取り上げられるベンチャーの様子に感化されて「俺たちもやろう!」って集まるんですけど、会社勤めもしたことないからベンチャーが何してるかわかってなくて。だから、今考えるとみんなで集まってゲームしてるだけでしたね(笑)。パソコンいじったりインターネットの設定をしたり、サーバーを立てたり。集まってるだけで、ベンチャーやってる気持ちになってたんでしょうね。

——ビジネスルールはやりながら覚えていくって感じだったんですか?

当時、仕事のやり方のステップがまとまっている本がなくて。「見積書くれ」って言われても、「見積りって何だ……?」みたいな感じだったので、みんな修行と称していろんな会社にアルバイト行き始めました。みんなで勤め先からちょっとずつ情報を集めて、「見積書ってこういうものなんだ!」みたいな。僕は開発、猪子君は営業のバイトをしていました。懐かしいですね。

 

受託開発とクリエイティビティの狭間で

——自分たちがつくりたいものの他、受託開発もされているのでしょうか?

もちろんです。たとえば「チームラボ」もいろんなアートを作ってすごい注目されて、クリエイティブな会社に見えますが、実はインフラに近いカッチリしたシステム開発の仕事も続けています。受託開発で収益を生みながら、何かクリエイティブなことをやろうっていうスタンスです。そこのバランスはすごく難しい。

——「面白い表現やクリエイティブに携わりたい」ってみんな思いますけど、メディアに登場するような華やかなプロジェクトはごく一部で、受託という稼ぐお仕事があって、その上でいろんなクリエイティブなことをやっておられる。

「チームラボ」時代も、エンジニアはもっとクリエイティビティな力を発揮できるはずだって思っていました。稼げるけど辛い受託、面白いけど儲からないクリエイティブ。そこをカッチリ分けるんじゃなくて、受託でも面白いことをやりたかった。今のウチみたいに実際にロボットを作ってる会社はまだほとんどないので、ありがたいことに外部から依頼が来ます。そうすると、受託でも自社開発でもロボット作れるので、エンジニアとしては両方楽しいんです。

——「ロボットを作りたい会社」というコンセプトで、他社と差異化できたのでしょうか。

そうかもしれませんね。僕が「ロボット作りたい」って言い出した時はPepperも出る前で、ロボットっていうものが市場で認知されていませんでした。ロボットとビジネスを一緒に語る人なんていなかったので「ユカイ工学さんはロボットサークルですよね」とか「ホビースト集団ですよね」っていう扱われ方が結構多かったんです。でも、Pepperが出てきた瞬間から「なんかロボットでビジネスしなきゃ」っていう風に世の中がガラッと変わって。会社が成長し始めたのもそこからですね。

——一見危機のように思いますけど、チャンスだったんですね。

「ロボットがいる生活ってアリなんだ」「こういうのいいじゃん」ってみんなが思ってきて。プログラミング、金型、デザインなど、ロボットはいろんな技術の結晶なので、ロボットを作りたいと思っても相談できる企業はまだ少ない。しかも、今のロボットにはクラウド技術が必須。ウェブサービスとかアプリ開発にはある程度経験が必要で、それを全部作れるところはなかなかないですね。

——超大手か、ユカイ工学さんくらいでしょうか。

会議で決済を通すのってすごい大変じゃないですか。「なぜこのデザイナーに頼むの? 実績あるの?」とか。大手企業は、ロボットのデザイン実績がある人にしか頼めないんですよ。そうすると、ライバルは2、3人しかいませんから、それに勝てばいいっていうだけになります。ただ、日本の大企業の経営陣はデザインの判断できないので、受託では「BOCCO」のようなユルいデザインはなかなか作れないでしょうね。

ユカイ工学のメンバー

日常に潜むちょっとした孤独を解消するロボットづくり

——ユカイ工学さんの今のプロダクトは、すべて青木さん起案なんですか?

社員20人をグループに分けて、チーム戦の社内のコンペをやっています。小さいチームで試作品が動くところまで作るのは楽しいですし、集中して作ると新しいアイデアが生まれてくるのを過去のいろんなワークショップで見てきたので。それを、プロジェクトが一緒になることが少ない、普段あまりコミュニケーションを取らない人同士を組み合わせてやっています。

——製品化するには何百万円も必要だったりしますよね。たとえば社内コンペで勝ち残ってきたアイデアを、製品化する決め手は何ですか?

一つは純粋に面白いかどうか。触ってみて新しさがあるかどうかです。もう一つはやる気というか、最後まで「製品化したい!」という強い想いを持ち続けられるチームかどうかです。「頑張ってアイデアを形にしなよ」って僕が言わなくても、勝手に形になるくらいの勢いがないと、実際世の中に出るものにならないと思っていいます。

——優秀なスタッフが集まっています。どういう人と働きたいとお考えですか?

ひたすらいろいろモノをつくってる人かな。「平日は仕事でプログラミングするけど、休日は一切パソコンに触りません」みたいなタイプではなくて、休みの日は平日よもりもっと忙しく何かつくってる人が理想です。

——今後、ロボットを通してどのように世の中を変えていきたいですか?

若い独身世代には、スマホがあればロボットなんていらないと思うんですよ。帰って寝る程度で家にもいませんし、ロボットと会話するぐらいだったら飲み会に行くと思います。でも、子どもだったり高齢者だったり、それができない人は結構いて。そんな人のためのユーザーインターフェースとして、ロボットの可能性を見出だしていきたい思っています。

時間軸も含めて寄り添えるロボットに

——日常のお留守番でもちゃんと使えて、電話回線が止まった時の連絡手段になったり、ちょっと異常を発見できたり。「BOCCO」はフェーズフリーの概念にぴったりですね。

時間軸で考えて、将来どんな風に活躍するとか、年を重ねた時や怪我したときとか、通常じゃない場面にどうやって「BOCCO」がその人に寄り添えるのか。そういうことを考えるのも面白いですよね。

——非常時にいきなり何か使い方を学ぼうとか、平常時しまっておいてゴソゴソ出すとか。そういう防災グッズではなくて、日常に活躍するものだからこそ、災害時に本当に人々を救ってくれるような気がします。

そういう視点を取り入れながら商品開発をしていくのも、面白いですね。

HACOBUNEスタッフのポイント

「BOCCO」ってこんなにフェーズフリー!

■日常

家族の時間が取りにくい現代人の家庭に寄り添い、相手に圧迫感をあたえることなくナチュラルに暮らしを見守れます。音声合成システムにより、「BOCCO」に録音したメッセージを声と文字情報でスマホへ送信。自由なタイミングでシチュエーションに応じたコミュニケーションが可能です。振動や室内環境を感知するセンサーと同期することで、離れていても元気に暮らしていることを確認できます。

■災害時

電話回線がつながらなくなった場合、もう一つの連絡方法として家にいるご家族の安否を確認。被災状況を共有し、ベストな行動を考えることができます。「部屋センサー」は日常でも熱中症予防として力を発揮。また、日頃からコミュニケーションを取り合う関係性を育み、お互いの暮らし方を把握することは、もしもの時のスムーズな連携へとつながります。

 

BOCCO ~家族をつなぐコミュニケーションロボット~

商品名:BOCCO ボッコ
サイズ W90 x D55 x H195 (mm)
重量 220 (g)
電源 100-240V ACアダプター
消費電力 6.8 (W)
Wi-Fi規格 IEEE 802.11 b/g
Bluetooth規格 Bluetooth Low Energy

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